「寄付の意識改革」ー非営利活動の成長を支えるために今できること
タイトルは「The way we think about charity is dead wrong
(慈善活動に対する私たちの考え方は間違っている)」──
ファンドレイジングを行ってきたDan Pallotta氏。
今回はこの動画の要点と、私が感じたことを交えながら、
日本における非営利活動の可能性について考えてみたいと思います。
「寄付大国アメリカ」でも実は2% ─ 驚きの現実
Pallotta氏によると、アメリカ人の年間平均寄付額はGDPのわずか2%。
この数字は、慈善活動が文化として根付いていると思われがちな
アメリカでも、非営利活動への経済的支援が限られている現実を
示しています。
私たちの住む日本ではさらに低く、内閣府のデータによると日本の
個人寄付の割合はGDP比でわずか0.14%(2020年)。
背景には、寄付文化の未成熟だけでなく、
「非営利=無償奉仕」という固定観念や、「支援はお金ではなく
気持ちで」といった道徳的な圧力も影響しているようです。
これは社会的投資としての寄付の意義を見失われているかも
しれないということではないでしょうか。
なぜ非営利には「広告」が許されないのか?─ 清教徒の価値観の影
Pallotta氏が語った印象的な指摘のひとつが、
「マーケティングや広告は営利企業には許されるのに、
非営利には拒否感がある」
ということ。
その理由として彼は、アメリカの宗教的ルーツ
──清教徒的価値観に言及しています。
清教徒(ピューリタン)は17世紀にイギリスからアメリカ大陸に
移住してきたプロテスタントの一派で、禁欲的で道徳を重んじる
生活様式を重視していました。
彼らは労働や慈善を神の意志として捉える一方、見返りを求めたり、
人目を引くような行動を「俗的」として慎むべきものと考えました。
こうした宗教的背景がアメリカ社会に根強く残り、
慈善や寄付に関しても
「目立ってはいけない」
「無償であるべき」
という考えを無意識のうちに定着させてきたとされています。
この文化的影響が現代の寄付者の行動にも影を落とし、
非営利団体が広告に費用をかけたり、高給で人材を雇うことへの
拒否感につながっているのです。
この価値観が善意の足かせとなり、非営利団体の成長や
イノベーションの妨げになっている可能性は見過ごせません。
日本ではなぜ寄付文化が根づかないのか?
アメリカのような宗教的バックグラウンドがない日本でも、
寄付に対して消極的な文化は根強く存在します。
その背景には、以下のような要因が挙げらるのかもしれません。
相互扶助の伝統
江戸時代から続く「近所付き合い」や「村社会」の価値観により、困っている人は地域で助け合うという考えが主流で、
制度的な寄付や中間支援団体にお金を預ける習慣が根づきづらかった。
「陰徳を積む」文化
寄付を行っても、あえてそれを公表せず、
見返りを求めないことが美徳とされてきた。
よって、マーケティングや宣伝といった活動に対する
心理的抵抗が生まれやすい。
税制や制度の遅れ
日本では寄付に対する税制優遇措置が限定的で、
アメリカのように「寄付は節税手段」という認識が
一般に浸透していない。
団体への信頼不足
寄付金の使途が不透明だと感じる人が多く、
寄付先を見極める情報が乏しいこともハードルになっている。
これらの背景を理解することは、日本における寄付文化の醸成に向けた
第一歩となるでしょう。
非営利の「投資」に対する理解をどう広げる?
営利企業と同様に、非営利団体も人材や広告、テクノロジーに
投資することで初めてインパクトを拡大できます。
それにもかかわらず、寄付者がそれを理解しない限り、団体は常に
「節約」や「ボランティア精神」に縛られ、規模を拡大できません。
この“誤解”をどう解いていくかは、今後の大きな課題です。
現時点で明確な解決策があるとは言い切れませんが、以下のような
アプローチが重要になると考えます
透明性のある報告
寄付金の使途や成果を定期的に公開し、信頼を築く。
インパクトの「見える化」
ストーリーで可視化する。
教育と啓発
「成長戦略としての寄付」の意義を伝える。
メディアとの連携
また、Pallotta氏の動画で強調されていたのが、「必要な経費」が
過小評価されてしまう現実です。
たとえば、会計上ではマーケティングや人材育成などの費用が
明確に分類されず、「運営コスト」として一括りにされがちです。
そのため、決算書を見た寄付者が
「この団体は支援対象にお金を使っていない」
と誤解してしまうリスクがあります。
非営利団体にとって、組織基盤を整えるための支出は、
インパクトを持続的に拡大するための「未来への投資」です。
その考え方を社会全体で共有し、評価基準そのものを
見直す動きが求められています。
特に若い世代にとって、寄付は「自己実現の手段」として
再定義される可能性があります。
私たちにできること ─ 意識を変える3つのアクション
私たちの「寄付」や「非営利」に対する認識を変えるために、
まずできることは、次の3つだと考えます:
知ることから始める:良質な動画や書籍、NPOの活動報告に
触れる。語り、伝える:自分の感じたことを身近な人にシェアし、
対話のきっかけをつくる。少額でも行動する:金額に関係なく、「寄付をする」という体験
そのものが社会への参加につながる。
小さな関心や行動が、社会全体の価値観を少しずつ変えていきます。
「寄付」は投資であり、共創の一歩
Pallotta氏のトークを通して感じたのは、「寄付」や「支援」を
“消費”ではなく、“未来への投資”として捉え直す視点の必要性です。
非営利活動は、「愛の市場」として、利益ではなく人間の可能性を
最大化するために存在しています。
その実現のためには、私たち一人ひとりの「認識の変化」こそが
鍵になるのかもしれません。
参考資料:
Dan Pallotta「The way we think about charity is dead wrong」TED (2013)
米国IRSデータ「Giving USA」
『アメリカをつくった清教徒たち』山本正編著、講談社学術文庫(2004)
あなたの関心が、社会の価値観を少しずつ変えていく第一歩になります。
あなたの小さな関心が、誰かの未来を照らします。
そしてその行動は、私たちの社会を育てる「共創の種」となるのです。
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